
現場で生まれて改良を重ねた技術
荒山「地球温暖化や産業廃棄物問題など、環境保全をめぐる議論が年々強くなっています。そうした中で、無塵工法であり、また屋根を産業廃棄物にしないZeroDルーフは非常に大きな意味を持つものだと感じました。まずは、ZeroDルーフを開発するに至った経緯を聞かせてください」
仲井「我々がZeroDルーフを開発したのは今から五年前、二〇〇〇年頃にトヨタ自動車さんの関連会社から依頼があったのがきっかけですね。工場は昭和四〇年代に建てられたもので、老朽化がひどかったようです。従来の屋根改修では、既存のスレートにドリルビスを貫通させて、新しい屋根を上に乗っけて結びつける。この場合、天井から切り粉が落ちますから、自動車製造の品質管理という意味で問題視された。それにトヨタの工場は全国で二〇〇万㎡あるそうで、その全てで改修のために工場を止めるとなると大変なことです。そこでスレートを貫通しない、工場を稼働しながらできる、そんな工法はないかと開発を進めました。そして他社の似たような工法との競合の中で、当社が特許をとったZeroDルーフを、埃が全く落ちないということで採用していただきました」
荒山「工法の具体的な説明を見ますと、既存のフックボルトに金属タルキをかませて屋根をふき直す、ということになっています。業者さんにしてみると、本当にこれで強度は大丈夫なのかという不安があると思いますが」
仲井「この商品は、実際に施工している職人の皆さんと相談しながら開発しました。現場で生まれた技術だと言えます。既存のフックボルトというものは、それはもう雨風でぼろぼろに錆びています。これをそのまま利用できないかと聞いてみたら、みんなそんなの無理だという。本当かと思って調べてみたら、ちゃんと回って入るんです。でもそれだと錆びに負けてしまうので、ロングナットで錆びを落としながらもみこむような形にしたら、がっちり決まったわけですね。コロンブスの卵的な発想だったのではないかと思います。さらに強度については改良を重ねて、ヨドコウ(株式会社淀川製鋼所)さんの試験工場を使わせていただき、共同開発ができました。長年のおつきあいがあったからできたことです。話を聞くだけでは疑われる職人さんも多いんですが、実際に見て触ってもらうと手応えを感じて納得していただけます」
ZeroDルーフとちきゅうにやさしい施工研究会
荒山「まさに新しい視点を、企業連携で実現できたわけですね。他にご苦労された点はありますか」 仲井「実際の現場では、ボルトの風化がひどすぎたり、さらにはボルトの頭の部分がなくなっている場合もあります。職人さんの声はその日の内に返ってきますから、すぐに改良を重ねました。結果、新たなサドルを開発して、そうした場合にも対応できるようになっています
仲井「実際の現場では、ボルトの風化がひどすぎたり、さらにはボルトの頭の部分がなくなっている場合もあります。職人さんの声はその日の内に返ってきますから、すぐに改良を重ねました。結果、新たなサドルを開発して、そうした場合にも対応できるようになっています」
荒山 「ZeroDルーフの工事は、板金業としてはさほど難しくない、非常にシンプルなものです。しかし稼働している工場の屋根で作業するわけですから、失敗は許されません。無塵工法だと言っているのに何か落ちてきたり、ましてや踏みぬいて落下などもっての他でしょう。それらの対策についてはいかがですか」
仲井「古いスレート屋根の上での工事というのは、非常に危険なんですね。ちょっと踏んだだけで割れてしまいますし、落下事故というのも全国で絶えません。そのため当社のシステムでは安全ネットを敷設します。ただ従来の建築用ネットは必要以上に丈夫で、コストが高い。そこで漁網業者の方と相談して、ペットボトルを再生利用した丈夫で安価なネットも開発しました。他にも広い規模の工場なのに、荷揚げを片側からしかできないという状況がよくありますから、足場用の鉄骨モヤで工具運搬用のトロッコを転がせるように工夫したりしています。そうして現在のZeroDルーフにつながりました。しかし当社だけではとても全国に拡げるようなブランディングはできません。そこで荒山さんに相談したのが、ちきゅうにやさしい施工研究会のきっかけでした」 」
地球環境にやさしい専門工事業へ
荒山「当初は見積もりや積算などのコンサルティング上のおつきあいでしたが、ZeroDルーフの技術を聞いて、これはすごいぞと思いました。工法を日本全国に拡げれば、経営者にしてみれば見栄えがよくなるし、工場価値も上がる。働く方々にも作業環境がよくなって、室内が過ごしやすくなるから喜んでもらえる。スレートを触らないので作業者も室内の方もアスベストの飛散の心配が無くなる。そして施工業者にとっては短期間工事で利益率が高い。みんなで幸せになれます」
仲井「日本金属屋根協会の発表によると、全国のスレート屋根は一五億平方メートルあるそうです。これらの老朽化が進んでいますから、大きなニーズがあると思うんです」
荒山「大きいどころか、巨大市場ですよ。冷房負荷の軽減については、豊橋技術科学大学の本間名誉教授が、実際に工場にセンサーを設置して調査してくださって、夏場には室内の体感温度が七度も下がるという結果が出た。二〇〇二年の建築学会で論文も発表されています。もちろん工場の大きさや屋根の高さもありますから、どこも同じだとはいえないでしょうが、少なく見積もっても体感で三度は下がる。これ、当初から確信があったのですか?」
仲井「効果があるだろう、という予感はありました。実際に改修した工場の方に聞くと、朝出社してきて工場を開ける時の、ムワッとした熱気がないと仰るんです。ただ、こんなに効果があるとは思わなかったですね。工法を採用したアイスクリーム工場では、七〇〇平方メートルの広さで、光熱費が大幅なコストダウンになっているそうです。冬も役立つんですよ。屋根が二重になって空気の層ができますから、昼の太陽熱がたまります。そうすると冬の夜間に、今度は暖房効果を生じるんです」
荒山「すばらしい省エネが期待できますね。京都議定書で我が国にも炭酸ガス排出を抑える目標が設定されました。現在は一四パーセント減らせと言われているんですが、これがおよそ四三〇〇万トンという量になるそうです。本間名誉教授によると、もし一億平方メートル施工すればZeroDルーフによる二重屋根化で、一七〇万トンくらい削減できる計算になります」
仲井「アスベストの飛散を防ぐという効果も見ていただきたいところです。これまでの屋根だと、長年の雨風による劣化で、表面が剥がれてアスベストがむきだしになっていることがある。そこに穴を開ける従来工法では、工場内部に切り粉が飛散する上に、施工作業者の体にも良くない。しかし上から新しい屋根を乗せてしまえば、アスベストはまさに封じこめられるわけです」
「私はこの話を聞いて、専門工事業というものがエンジニアリング企業として大きく飛躍する、その第一歩なのではないかと考えました。ZeroDルーフというネーミングも、ゼロDefect(不良・欠陥なし)、ゼロDust(無塵)、ゼロDanger(危険なし)の三つのDがこめられた、いい名前だと思います」
荒山「工事をしたお客様からは非常に好評なんです。工場の本社経由で別の工場からも発注があったり、同業者に紹介してやるからカタログをあるだけもってこいと仰る方もいたりと、お客様がお客様を呼ぶような形になるほど大変喜んでいただいていて、現在で一五万平方メートルの施工実績があります。しかしさらに大きく展開したいですね」
荒山「そのためには、早急にネットワーク作りをしないといけません。優秀な技術をもち、志を同じくする全国の施工業者が集まれるような形にです。さらにそれを全国ブランドとして育てるには、営業ノウハウ、アフターフォローまで含め、品質を保つための組織だった支援体制が必要です」
仲井「例えば北海道で施工品質の高い業者さんがいるんですが、冬の長期間、雪で仕事がストップするそうです。そこで本州のこちらまで来てもらって、工事を手伝っていただくということがありました。ネットワーク化が進めばこうした動きも活発になりますし、お互いのノウハウも共有できます。動きは既に始まっているんです」
荒山「ZeroDルーフは、全国で推進する価値がある商品です。工場の作業を維持したまま施工でき、アスベスト飛散を防ぐこともでき、断熱効果で空調コストにも貢献できる。品質重視、そしてその品質が環境までも救うというのは、時代の波に乗る力になりますよ。仕事をするだけで社会に多大な貢献となる。ちきゅうにやさしい施工研究会がそのきっかけになればと思います。がんばっていきましょう!」