インタビュー
「株式会社秋重板金工業」

取締役会長 秋重 正久(会長)

代表取締役 秋重 正幸(社長)

経営者というバトンを受け、そして渡して来られた正久会長から、継承について

会長にもう一つお聞きしたいのですが。
昨今、事業継承が話題になる事が多いのですが、会長は、経営者というバトンを創業者から受けられ、また現社長に渡して来られたという事で。受けて渡してを両方経験された希少なお立場から、
継承の際にはこういうところは注意しておいた方が良い、もしくは、こういうところを注意しておけば良かった、という事はございますでしょうか。

(会長)
うーん、そうだね。
今となっては、あの時にもっとあれこれ聞いとけばよかった、というのはあるよね。技術的な事とか、昔の仕事だよね、藁葺屋根とか、銅板屋根とか、そういうノウハウを必要とする仕事が今でもあるからね。
でも、亡くなってるから聞けないんよね、オヤジがやった現場。写真はあっても、他は図面も何もないから。

今の時代は、引き継ぐための書類や資料が山ほどあるけど、昔の人は書類は残さんと、口であーせいこーせい言うだけやったから、ワシも忘れちょるんよ。
それはちょっと残念に思っとる。

確かに。先代がお元気で、あれやこれやとお話しできる環境のうちにバトンタッチできた方が良いという事ですね。

(社長)
私も、本当にその方が良いと思います。
自分自身、ただただ慣れてきただけで、技術的な事とか、聞けていな事とかがいっぱいありますから。

今は大きい工事はみんな折板とか金属サイディングとかが多いですけど、昔の銅板のやつとかそういうのは、古い資料はあるけど、みんなににまだ伝えていないので。
いつ何時、昔のお客様から連絡があるかも知れないので、そういうのはちゃんと、聞けるうちに聞いておかないといけないなと思います。

業界全体でも同じような課題があるのではないでしょうか。

(社長)
以前、元請の担当者さんが言ってたのが、ようは職人不足で大手も困っていると。板金屋さんの中でも野丁場の職人はもちろん減っているんだけど、町場の職人も減っているんだと。

(社長)
町場の職人さんの跡継ぎというと、実際は、自分たちの子供しかいないというところが多いんですよ。第三者が応募してきたり採用したりするのは難しいので、結局は親族しかなくて、そこが途絶えたら終わりなんですよね。 現実には、町場の会社を町場一本で回していこうとすると数を集めないといけないので、今度はそっちが難しいという状態で。

だから、ある程度大きな所がしっかり採用して、町場の技術も引き継いでいかないと、ゆくゆくは町場の仕事もできなくなってしまうんじゃないかと。

だから、私らみたいな会社が入って、町場の仕事とかもちゃんとキャリアプランを考えて、将来的に社員として残るもよし、独立してでも、町場の仕事をやり続けてくれたら、途絶えることなく繋がっていく。

町場の仕事自体は無くならないですから。
大手も中小も。元請も下請けも、業界全体・社会全体の問題なんですよね。

(社長)
基本町場は町場の板金屋さんがやるんですよ。本当に親子でやっているようなところばかりで。
時々例外の会社さんもありますけど、組合もそういう板金屋さんが多いですね。

そうすると、ひとり親方、家族経営の方々が町場の市場を回してらっしゃって。結局、親から子へ、もう辞めだって言ったらそこで終了。
企業としてどこかが繋いでいかないと、市場だけじゃない、社会が停滞してしまう恐れもあるので、一社だけの問題では済まされないという事ですね。

業界内でも少しずつM&Aという言葉を耳にするようになってきました。やり方は少しずつ違うのですが。
最初は仕事を融通し合いながらゆるやかに提携していったり。
別会社を立てて理解してもらえるお客様から順番に発注先を変えてもらったり。
廃業を考えてる会社の資産(負債)を買い取ったり。

どうしてもM&Aというとマイナスイメージが先行してしまいますが、やり方はそれぞれですので、今後はそういう選択肢も、現実として出てくるのだと思います。

(社長)
それが全て正しいとは言わないですけど、ある程度それも方法なんだと思います。そうしないとこの仕事自体ができなくなるというか、現実けっこう淘汰されてきていますからね。 悪い事をしている訳ではなくて、逆にそれが、できる会社の業界に対する大きな使命でもあり、業界における責任だとも思います。

国の方針としても、一人親方は基本辞めさせるような動きになっているので、それに気付いた人達が少しずつ集まりだしている県もありますね。

野丁場でやられている板金屋さんは、組織化していくのが一般的ですが、町場でやられる板金屋さんは、一人二人なら身一つ、道具一式で済むなら、なかなか組織にしていくという感じではないのかも知れませんね。

とは言いつつも、住宅は無くなりませんし、改修も無くならない。これからは災害も多くなってくるから、地場の体制を整えていく事も考えないといけませんね。

(社長)
うちにもちょこちょこありますよ。
ホームページを見て電話してこられるお客様が、月に4・5件はあります。
そういう一軒一軒の町場の仕事もしているので、大小合わせると年間500件くらいになりますね。
これは工事件数ですので、お問合せ、見積り件数はもっとですね。

その中に億超えの現場もあれば、改修数万円の工事もあると。
それは担当で分けてらっしゃるのでしょうか。

(社長)
仕事の大小で担当は分けてないですね。
得意先、営業所ごとの担当はありますけど、みんなで見積りしたり、図面を書ける人が図面ばかり書いている時もあります。
ただ、大きい仕事は得意分野で分業してやりますね。

契約して現場が始まっても、見積りした人が見る時もあれば、別の誰かが見る時もありますし、会長が最初から最後までやる時もありますよ。
たまたま会長が電話を受けて、見積りしたから、その流れでワシがやっちょく、て言って。

会長ならもう、さらさらっとやっちゃうんでしょうね。
役割分担ここに極まれり、ですね。

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